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酸化マグネシウム製剤の副作用報告死亡事例への緊急提言
酸化マグネシウム製剤の副作用報告死亡事例への緊急提言
 
はじめに
   独立行政法人医薬品医療機器総合機構(機構、PMDA)が、酸化マグネシウム製剤の副作用についての使用上の注意改訂指示を2015年10月20日付で発表し
 使用上の注意の改訂指示(医薬品関連情報)平成27年10月20日付(厚生労働省より発出)を掲載しました。 また、機構は同日に酸化マグネシウム製剤製造販売会社(17社)の連名で、医療機関向けに「酸化マグネシウム製剤 適正使用に関するお願い —高マグネシウム血症—」と、患者向けに「酸化マグネシウム製剤を服用中の患者さん・ご家族の方へ」を出させ、それをマスコミ各社が報道しました。 MAG21研究会ではこの件に関し、限られた情報を基に調査した結果を正しくご理解頂けるように以下に報告いたします。
 
背景:
   マグネシウムは栄養機能成分としても認定された必須・主要(多量)ミネラルであり、酸化マグネシウムはその酸化(化合)物のひとつで、わが国では1950年から日本薬局方に収載され50年以上にわたり便秘薬、制酸剤(少量で)等として年間延べ約4500万人に処方されている安全性が極めて高い医薬品です。
   酸化マグネシウムの添付文書には、従来から「副作用」の項に高マグネシウム血症が記載され、注意喚起がなされており、臨床現場では酸化マグネシウムの処方に際し、特に腎不全などの病態における高マグネシウム血症の発現に対する注意が払われています。
   しかしながら厚生労働省(以下、厚労省)医薬食品局安全対策課は平成20年9月19日付課長通知として「使用上の注意の改訂指示」を酸化マグネシウム製剤製造販売関連企業に発し、各社関連企業は添付文書の改定
2008年9月 酸化マグネシウム製剤 製造販売会社 「酸化マグネシウム製剤における高マグネシウム血症について」 を直ちに実施しました。その後、同安全対策課は平成20(2008)年11月、「医薬品・医療機器等安全性情報No.252 1.酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について」を発出し、マスコミ報道各社にも公表しました。これに対して、マスコミ各社は同日、一斉に「厚生労働省が通常便秘薬として使われる医療用医薬品酸化マグネシウムの副作用報告(15例のうち2例死亡)として、便秘薬で2人死亡、一般用医薬品のリスク区分分類を第3類から第2類へ引き上げ規制を強化する」などと報じました(一例として、便秘薬長期服用で2人死亡 厚労省、注意呼び掛け2008/11/27 21:32 共同通信 配信)。この突然の報道発表は酸化マグネシウムを処方・調剤する医療従事者には疑義を、また、これを服用する患者さんには必要以上の不安を引き起こす結果となりました。
   そこで当時、日本マグネシウム学会では、理事会、評議員会、総会の議を経て事実検証の酸化マグネシウム副作用検討ワーキンググループ(小林昭夫先生、菊池健次郎先生、西牟田守先生、齊藤先生、小西真人先生、川村祐一郎先生、星野健司先生、恩田威一先生、下村勝則先生、横田邦信先生(実務担当責任者))を設置し、酸化マグネシウム投与による副作用発現、特に死亡2例との因果関係の真偽を科学的、客観的、専門的な視点から検証した結果、被疑薬(酸化マグネシウム)と死亡との直接的因果関係を科学的には立証できない可能性の強いことが判明したとし、理事会で承認された「酸化マグネシウム副作用報告の取り扱い問題に関する日本マグネシウム学会の見解・要望書」を、当時の厚生労働大臣 (舛添要一氏)および厚生労働省医薬食品局安全対策課長(森和彦氏)に提出しました。この結果、厚労省は非を認め、一般用医薬品のリスク区分分類を第3類に留めました。これら一連の経緯に就いては、以下の当MAG21研究会のホームページサイトで詳細に報告し
2010.03.02 11/6 厚労省安全対策部会議事録公開、第29回日本マグネシウム学会(於 鹿児島大学)でも、当研究会メンバーの横田邦信教授が詳細に報告しています。また、関連資料は他のサイトでも見られます(資料No.2-1)。
   今回、厚労省関連組織である医薬品医療機器総合機構(PMDA)が平成27(2015)年10月20日付で
 使用上の注意の改訂指示(医薬品関連情報)平成27年10月20日付(厚生労働省より発出)を掲載しました また、使用上の注意改訂情報(平成27年10月20日指示分)を出し、同日に製造販売会社が連名で、医療機関向けと患者向けに注意喚起を文書で出させました。
   これに対し、マスコミ各社は、「酸化マグネシウム剤で高マグネシウム血症を発症し、この3年間に29例が重篤な転帰をたどり、うち19症例は因果関係が否定できない。死亡4例が報告され、うち1症例は因果関係が否定できないとして、酸化マグネシウム製剤で死亡例」などと報じました。今回の場合、2008年の改訂にも拘らず症例が引き続き減らないためと厚労省は再改訂していますが、死亡症例は2008年当時の症例と酷似し、再び酸化マグネシウムを処方・調剤する医療従事者には疑義を、さらに服用する患者さんに必要以上の不安と疑問を引き起す結果となりしました。
 
【目的】
   今回の目的は、酸化マグネシウム剤の副作用報告のうち特に因果関係が否定できないとする死亡1症例について、精査検証をし、2008年当時の死亡症例と比較検討することです。

 
【検討項目と方法】
   機構から発表された資料、酸化マグネシウム製剤製造販売関連企業およびマスコミ報道から得られた情報を基に、それらの内容を整理・確認した上で、専門的な視点から精査検証しました。特に、「酸化マグネシウム剤で高マグネシウム血症を発症した29例が重篤な転帰をたどり、うち19症例は因果関係が否定できないとし、死亡4例が報告され、うち1症例は因果関係が否定できないとした症例を中心に検証しました。具体的には、酸化マグネシウムの副作用報告に対し、酸化マグネシウム製剤製造販売会社の「【使用上の注意】改訂のお知らせ」に記載されている死亡症例1の限られた情報について調査しました。

 
【検討結果】
   死亡症例の概要を以下に示します。
 

10-168 MgO副作用報告死亡症例1
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   この死亡症例40歳代女性は、担当医の判断で死因が高マグネシウム血症とされただけで、酸化マグネシウムの服用で死亡例とされています。来院時、高マグネシウム血症(18.4mg/dl)を呈しているにも拘わらず、血圧は143/99mmHg(脈拍76/分)と保たれています。入院後の処置(血液透析)によりマグネシウム値は10mg/dlまで低下しているにも拘わらず、ショック状態となり徐脈を呈しています。入院時に敗血症の合併があり、また下血を来しており、多臓器不全や播種性血管内凝固症候群(DIC)を起こしてのショック状態にあったと考えるのが妥当と思われますが、肝機能のデータやCRP、末梢血液、カルシウム(Ca)をはじめとする臨床検査データがなく検証が難しい状況にあります。また、高マグネシウム血症に対するCa製剤の投与、ステロイド剤の投与等の有無も全く不明です。腎機能が正常域を示しながら18.4mg/dLと高マグネシウム血症を認める点も不可解な現象です。更に、17種類という極めて多くの薬剤服用による薬剤性肝障害等の臓器障害が存在しなかったのか?他の基礎疾患はどうであったのか?マグネシウムの服薬期間がどのくらいで、便通は付いていたのか?など、多数の疑問があります。
 
   ここまでの精査結果として、機構が「専門委員の意見も踏まえた調査の結果」として発表した被疑薬(酸化マグネシウム)と当死亡症例との因果関係が医学的に極めて低いことが判明しました。問題は、被疑薬(酸化マグネシウム)と死亡との因果関係の臨床情報が不備でかつ検証が不十分にも拘らず、事実に反し酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症が死因と結論付けていることです。

 
【結論】 
   この死亡症例40歳代女性は敗血症ショックが死因と考えるのが妥当でかつまた2008年の死亡症例80代女性と酷似「
医薬品・医療機器等安全性情報No.252 1.酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について」し、酸化マグネシウムと当死亡症例との因果関係が医学的に極めて低いといえます。
 
【結果からの考察】 
   高マグネシウム血症は一般に多くが医原性であり、注射用マグネシウム製剤の静脈内投与を除くと基礎疾患に腎不全を有する症例に酸化マグネシウムなどのマグネシウム製剤が大量かつ長期に投与された場合に緩徐に生じ、食思不振、嘔気、意識障害(意識レベル低下、傾眠、見当識障害)などを契機に発見される例が多いことから、酸化マグネシウムの添付文書でも以前からこの点の注意が喚起されています。また、腎機能障害が無い例でも高マグネシウム血症が起こり得えますが、その場合は基礎疾患あるいは病態に腸管壊死・虚血性腸炎などの消化管病変や高度の便秘持続による腸管拡張など、腸管バリア機能の破綻をきたす因子の存在が増悪因子とされています。便秘に対しては通常、酸化マグネシウムの1日1〜2g程度が、また重症例では1日3g前後が投与されることもしばしばあります。酸化マグネシウムの1g中には約600mgのマグネシウムが含まれ、高度な便貯留ではマグネシウムの腸管からの吸収が増大し高マグネシウム血症の助長因子となり得ます。高マグネシウム血症の診断は血清マグネシウムが基準値(キシリジル・ブルー法:1.8〜2.6mg/dl)の上限値以上の場合に診断されますが、概ね5mg/dl以下では症状に乏しいことが多く、それ以上に血清マグネシウム濃度が上昇する場合に徐々に症状が出現します。その際の臨床症状としては食思不振、嘔気、嘔吐、見当識障害、傾眠の非特異的な症状がみられ、血清マグネシウム濃度がさらに高値になるにつれて意識レベル低下、深部腱反射低下・消失、血圧低下、徐脈、呼吸抑制、心電図異常等が見られます。
 

10-169 血清Mg濃度と症状
参考) マグネシウム 成人病との関連 糸川嘉則・齊藤 著 光生館 1995年
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   また、臨床現場では、切迫早産、重症妊娠高血圧症候群(子癇)や急性心筋梗塞時の多形心室性頻拍などの致死性不整脈に対して、通常、心電図モニター下で注射用マグネシウム製剤の多量静脈内投与が行われ、その際の血中マグネシウム濃度は4〜8mg/dl程度(小児における不整脈治療では5mg/dl程度)に維持するよう行われ、この程度の高マグネシウム血症の安全性は既に確認されています。ですから、概ね10mg/dl以下程度の高マグネシウム血症がショックや死亡原因になることはありません。

 
死亡症例の考察:
   今回の死亡症例40歳代女性の死因を高マグネシウム血症と断定したのは、少なくとも6つの問題が関係しています。


1.  死亡症例の臨床情報が乏しい問題。
   肝機能のデータやCRP、末梢血液、カルシウム(Ca)をはじめとする臨床検査データがありません。高マグネシウム血症に対するCa製剤の投与等の有無も全く不明です。腎機能が正常域を示しながら18.4mg/dLと高マグネシウム血症を認める点も不可解な現象です。更に、17種類という極めて多くの薬剤服用による薬剤性肝障害等の臓器障害が存在しなかったのか?他の基礎疾患はどうであったのか?マグネシウムの服薬期間がどのくらいで、便通は付いていたのか?など、多数の疑問点があります。
   透析後のマグネシウム濃度程度で死亡することは臨床的には考え難いといえます。Torsades de pointes(VT)、切迫早産や重症妊娠高血圧症候群(子癇)等の治療には硫酸マグネシウムによる多量の静脈内投与が行われ、その際の血中マグネシウム濃度は10mg/dl程度の治療域とされています。
 
2.  この死亡症例は2008年の敗血症ショックによる死亡例とも共通点が多数あります。
   厚労省医薬食品局安全対策課が2008年、酸化マグネシウム副作用報告として死因が高マグネシウム血症とした死亡例80代女性は、緩徐に高マグネシウム血症が発症した際の自他覚症状の記載がなく、突然の大量下痢後にショック状態が発症しています。血清マグネシウム値は17.0mg/dLと高値。カルシウム負荷で一時的に血圧は上昇し血液透析でマグネシウム濃度が低下したにも拘らずカテコラミン不応性のショック状態が遅延している。これは腸管壊死(疑い)があり、膿性腹水(bacteria検出)も確認され、敗血症と診断されていることから細菌性の敗血症性ショックが死因と考えるのが客観的にみて妥当と考えられ、当時の厚労省が非を認めました。
   同様に今回の死亡症例40歳代女性の死因を高マグネシウム血症と結論付けることには臨床医学的にも無理があるといえます。
 
3.  厚労省・機構の副作用報告に関する対応問題。
   先の2008年問題時に厚労省医薬食品局安全対策課が苦い経験をしたにも拘らず、機構の副作用チームへは引き継がれていないことです。機構は今回も「高マグネシウム血症を発症して重篤な転帰の29例中4例の死亡例が報告され、因果関係が否定できない1例」に関しても精査検証はされず、ただ報告が来たものを纏めて発表したものと推察されます。
   2008年問題時に安全対策課が薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の結果が正しいと認め、今後の問題が出た対応は専門家、専門学会に相談するとの約束も守られていないと思われます。
 
4.  マスコミの報道問題。
   2008年の酸化マグネシウム副作用報告(15例のうち2例死亡)に関し、当時の精査検証結果は死亡2例とも被疑薬(酸化マグネシウム)投与と死亡との直接的な因果関係が医学的には無いとし、厚労省も過ちを認めました。このことを良く知らないマスコミ各社の記者が今回も2008年の誤った情報を基に記事を書いたので、一般、医療従事者にさらに混乱を与えた結果となりました。
 
5.  現場の医師・薬剤師の問題。
   医師は、特に高齢者で腎不全を含む中等度以上の腎機能障害を伴った患者が、便秘の為に酸化マグネシウム製剤を長期間多量に服用している場合に高マグネシウム血症を疑い、定期的に血中マグネシウム濃度の測定をして頂きたいものです。また、薬剤師は、患者が酸化マグネシウム製剤を長期間多量に服用している場合に高マグネシウム血症を疑い、主治医に疑義照会するようにして頂きたいものです。
 
6.  酸化マグネシウム製剤製造販売会社の問題。
   酸化マグネシウム製剤製造販売会社による医師、薬剤師への正しい情報提供を行う啓発活動がされていないために、今回の酸化マグネシウム副作用問題が再燃しました。機構の酸化マグネシウム副作用報告は、2008年に3年間で高マグネシウム血症15例(うち2例死亡)、そして今回2015年に3年間で高マグネシウム血症29例(うち4例死亡)と2倍になりました。更なる啓発活動を行わないと近い将来、3度目の酸化マグネシウム副作用問題が再々燃し更に症例数と死亡例が多くなる可能性があります。
   更に、今回の死亡症例40歳代女性の担当医への聞き取りに関し、もっと専門的で詳細な臨床情報が全く得ておらず、専門家にも相談することなしに、そのまま企業報告として機構に副作用報告したことも大きな問題です。
                                   以上
 
 
 
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